大船渡市復興計画骨子
平成23年7月8日決定
第1章 復興の基本的な考え方
1 目指すべき復興(復興計画とは)
平成23年3月11日に発生した東日本大震災により、大船渡市は沿岸部を中心に大きな被害を受けました。
この類を見ない災害を乗り越え、被災者が生活を再建するとともに、市民が幸せを感じ、誇りをもてるまちとして大船渡市が再生するためには、市民や企業、行政などの協働による取り組みを原動力にして、災害の経験と教訓を生かしながら、単なる復旧に止まらない、再び今回のような災害にあわないまちづくりを推進しなければなりません。
そのための総合的な計画として、「復興計画」を策定します。
2 復旧と復興
当面は、被災者の生活再建のため、住宅の再建やライフライン(電気、水道、通信など)の復旧などに早急に対応しなければなりません。
しかしながら、大船渡市をよりよいまちにするためには、単に災害前の状態を回復する「復旧」だけではなく、災害を契機として生活基盤や産業・経済、都市基盤などのあり方を創造的に見直しながら、すべての市民による大船渡市の未来を切り開くような新たなエネルギーを生み出す「復興」の取り組みを、積極的に推進する必要があります。
3 市民参加による復興
私たち大船渡市民は、今回の大災害が発生してから、ともに手をたずさえ、助け合いながら生活してきました。この間、全国、そして世界の多くの皆様から、物心両面にわたる温かい励ましと心強いご支援をいただいてきたところです。
このような経緯から、災害などには行政のみの力では到底太刀打ちできず、市民が一丸となって取り組むことが重要であることをあらためて認識するとともに、市域を越えたさまざまな支援と交流が、大きな支えになることを深く感じました。
復興においては、行政の率先した取り組みはもとより、市民の英知と行動力が、非常に大きなエネルギーになります。
今回の災害による経験と教訓を生かして、全国の皆様からのご支援とより一層深まる交流を糧としながら、被災者主体・市民主体による市民総参加の復興を積極的に推進します。
4 復興計画と総合計画の関係
大船渡市政の最上位計画は、大船渡市総合計画です。
災害からの復興は、緊急かつ最大の課題であり、最優先に取り組まなければなりませんので、できるだけ早期に復興に向けた取り組みを示すよう、大船渡市総合計画の基本構想や理念を踏まえて復興計画を策定します。
なお、総合計画実施計画や他の分野別に策定された個別計画などには、災害の影響や復興計画との関連で、事業の実施に影響が生じる場合があります。
5 復興計画の計画期間
市内沿岸部を中心に甚大な被害が発生したことから、復興に向けての課題は、日常生活に関する短期的なものから、新しいまちづくりに関する長期的なものまで多岐にわたります。
したがって、復興計画の計画期間は、総合計画と同じく平成23年度から平成32年度までの10年間とし、平成25年度までの3年間を前期、その後の3年間(平成26年度~平成28年度)を中期、計画期間の締めくくりとなる4年間(平成29年度~平成32年度)を後期として設定します。
前期、中期及び後期のそれぞれの期間においては、おおむね次のような取り組みを進めます。
前期(平成23年度~平成25年度)
防災上の応急的な安全対策に十分留意しながら、主に生活の再建や産業の再開に不可欠な住宅や都市基盤、生産基盤などの旧を進める期間とします。
特に平成23年度については、被災された方々の当面の生活に対する不安を解消するとともに、市民が復旧・復興に向けた想いを共有できるよう、各種復旧事業を精力的に推進します。
中期(平成26年度~平成28年度)
復旧された各種の基盤などを基に、市民と行政の協働により、復興の動きを本格化する期間とします。
後期(平成29年度~平成32年度)
さらなる発展を目指し、災害に強い、魅力あふれる新しい大船渡市を創る期間とします。
6 復興後の大船渡市の姿
(多くの皆さんが参加するワークショップなどを経て、復興によって目指すべき大船渡市の姿を市民の皆さんとともに導き出します。)
第2章 復興における課題、目標及び方針・施策
復興の全体目標は、「大船渡市が、大災害を乗り越え、よりよいまちとして再生する」ことです。災害前の生活を回復し、より前進した新しい姿を創り出せるよう、市民がともに知恵を出し合い、協力し合いながら復興に取り組みます。
1 市民生活の復興
課題
- 今回の災害により、非常に多くの住宅が被害を受け、特に津波浸水地域においては、ほとんど住宅が流失してしまいました。住宅は、生活するうえで欠かすことのできない大切な基盤であり、住宅の再建だけでなく、再び今回のような災害にあわない安全な居住環境づくりが重要です。
- 被災した方々は、心身に疲労やストレスを抱えていることから、健康の回復を最優先としなければなりません。災害を契機として、高齢化や少子化などにより変化する地域社会の姿を見すえながら、よりよい保健、医療及び福祉サービスのあり方を見出す必要があります。
- 大量に発生したガレキなどの災害廃棄物は、迅速に処理しなければなりません。処理にあたっては、循環型社会の形成にかなう対応が大切です。
- 教育施設については、一部の学校や体育館などが被災したほか、他の施設も含む多くの施設が、避難場所や救援物資の保管場所、仮設住宅建設地などとして使用されました。適正な教育機会を確保するため、被災した教育施設の再建を急ぐとともに、防災機能の向上を十分に考慮することが重要です。
- 古くから伝わる有形無形の歴史・文化資源は、大船渡らしさをあらわす地域の誇りであり、多くの人々の心のよりどころであるとともに、地域コミュニティーを支える重要な要素でもあることから、将来にわたって継承・普及することが大切です。
目標
市民生活を再建し、「人のつながり・地域の結びつき」を大切にしながら、安心・安全なまちをつくります。
方針・施策
- 被災者の早期の住宅再建を支援するほか、地域コミュニティーの維持・形成に配慮した、安全な生活環境を確保します。
ア 被災者の事情に十分配慮しながら、個人住宅再建のための支援を行います。
イ 住宅の自主再建が困難な方のために、公営住宅を整備します。
ウ 住宅の高台移転や宅地のかさ上げなどにより、津波などの災害にあわない安全な居住環境を整えます。
エ 住宅移転(市内)希望者への支援を行います。
オ 新たな居住環境において、人と地域のつながりが保てるよう配慮します。
- 市民が安心して暮らせるよう保健、医療、介護、福祉など生活に密接に関係する各種サービスの充実を図ります。
ア 被災者の心と体のケア対策を実施します。
イ 被災した保健・医療・介護・福祉施設を早期に復旧します。
ウ 地域医療を充実します。
エ 地域全体で高齢者や障がい者、子どもたちを支え合うやさしいまちづくりに取り組みます。
- 災害廃棄物を適正に処理します。
ア 大規模災害時に大量発生した各種の廃棄物を迅速に処理します。
イ ガレキについては、市内企業などにおいて処理し、処理後に発生する灰などもできるかぎり有効活用します。
- 被災した教育施設の再建などにより、教育機会の確保を図ります。
ア 災害に強い教育施設を整備します。
イ 被災した児童生徒などが、安心して就学できる環境を整えます。
ウ 生涯学習環境を充実します。
エ 各種スポーツを推進します。
- 市民共有の財産である歴史・文化資源を活用して、うるおいと安らぎをつくりだします。
ア 歴史・文化資源の継承・普及活動に取り組みます。
2 産業・経済の復興
課題
- 当市は、豊かな地域資源を生かした農林水産業や鉱工業、観光産業などを中心に発展してきましたが、今回の災害により、漁業や水産加工業をはじめ、沿岸部に展開する産業や企業が甚大な被害を受けました。経済活動と雇用環境に大きく影響を与えるこれらの早期再建が、市の復興にとって重要です。
- 災害によって失われた産業基盤を早期に、かつ、すべてを以前のように整備することは困難なので、投資施設や整備時期を十分検討する必要があります。
- 当市の復興は、基幹産業である水産業の再建なくしてなし得ません。関係者一丸となって早期の事業再開を図るほか、後継者問題などを踏まえ、将来を見据えた経営体制を模索する必要があります。
- 災害を契機として、市の各種産業のあり方や土地の利用方法が変化する中で、農林業が置かれる状況も変わります。遊休農地の有効活用や規制緩和の問題などを検討する必要があります。
- 商店や商業施設が大きな被害を受けたことにより、商業機能が縮小しました。特に大船渡町の商店街は、居住環境との分離も含め、まちづくりと連動した形態や機能の再編成を検討する必要があります。
- 災害による観光客や宿泊客の減少など、観光産業も大きな影響を受けました。観光産業の早期再建により、復興に向けて歩む市の姿を積極的に発信しながら、さまざまな交流の活性化を図ることが重要です。
- 地域資源や地場産業の力を生かしながら、産業・経済をより活性化することが重要です。この場合、各産業間の連携を図りながら、地域振興と雇用の確保につながる新たな動きを生み出すような取り組みが大切です。
目標
「地域の資源」、「産業・経済」、「雇用」の連動により、活気あふれるまちをつくります。
方針・施策
- 経済活動の早期再建を支援し、雇用の確保を図ります。
ア 仮設の工場や事務所の整備などにより、被災企業などの早期の事業再開を支援します。
イ 雇用環境を改善し、雇用の維持と創出を図ります。
ウ 被災者の復興関連事業への雇用を促します。
エ 既存の借入金と新たな借入金による二重ローンの軽減について、関係機関に働きかけます。
- 産業基盤を再建します。
ア 被災した各種産業の生産基盤などを早期に復旧します。
イ 基盤整備にあたっては、建築物の構造強化や電源対策の推進など、防災機能の向上に配慮するほか、重要施設などへの重点・優先投資を行います。
- 水産業の早期再建を図ります。
ア 漁船や養殖施設の共有・共用化、漁業の共同経営化などに対する支援を行います。
イ 新しい大船渡魚市場を早期に整備します。
ウ 漁業協同組合の経営安定化を図ります。
エ 地域特産水産物のPRや地産地消の取り組みを進めます。
オ 水産関連施設の防災機能の向上を図るほか、集約化などにより効果的に整備します。
カ 持続可能な水産業の仕組みを模索します。
- 農林業のあり方を検討し、振興策を見出します。
ア 遊休農地の有効利用を踏まえながら、被災した農地などを早期に復旧します。
イ 地産地消の取り組みを進めるなど、農林業振興を図ります。
- 商業の早期再建を図ります。
ア 仮店舗や共同店舗の整備などにより、早期の事業再開を支援します。
イ 被災した商店街については、防災機能や利便性の向上などを考慮して再整備されるよう支援します。
- 観光産業の早期再建を図ります。
ア 被災した観光資源・施設を復旧します。
イ 観光関連イベントを復活するほか、復興に係るキャンペーンを実施します。
ウ 農漁業体験などによる新たな観光振興を図ります。
エ 平泉の「世界文化遺産」登録や「ジオパーク」認定と連動した誘客活動を実施します。
- 地場産業の活力により、産業・経済を活性化します。
ア 既存企業の再生を支援します。
イ 地場産業の連携・高度化や新たな分野での起業などを支援します。
ウ 北里大学など関係機関との産学官連携の取り組みを推進します。
3 都市基盤の復興
課題
- 今回の災害により、道路や河川、港湾、上水道、下水道などの都市基盤施設が大きな被害を受けました。これらは、復興と災害に強いまちづくりを支える重要な施設であり、早期の復旧が急務です。
なお、重要度や緊急度などを考慮し、効果的に整備することが大切です。
- 沿岸部の低地地域が、津波により甚大な被害を受けた状況にあり、安心・安全な生活を確保するうえで、土地利用の見直しは避けられません。住まいと働く場所の関係のほか、市街地や農漁業地域といった地域ごとの特性なども踏まえながら、適切な利用を図ることが重要です。
- 災害時においては、あらゆる対応において、情報通信手段の確保が重要なことから、災害に強い情報通信基盤を整備する必要があります。
目標
将来にわたって「災害に強いまち」を支える都市基盤をつくります。
方針・施策
- 被災した都市基盤施設を早期に復旧するとともに、防災機能向上のために必要な整備を行います。
ア 道路・河川、港湾施設などを復旧します。
イ 湾口防波堤については、湾内の水質環境に十分配慮のうえ復旧します。
ウ 地盤沈下状況などを十分考慮しながら、海岸保全施設を早期に復旧します。
エ 上水道・下水道を早期に復旧します。
オ 都市基盤施設の復旧・整備にあたっては、防災機能の向上に配慮するほか、広域幹線交通網の強化や防災拠点として有用な「道の駅」の適正配置など、重要施設などへの重点・優先投資を行います。
カ 道路を盛土構造とすることなどについて、防災上の効果を十分検討したうえで整備を図るほか、災害時に集落が孤立しないよう代替路線を整備・確保します。
キ 災害に強い、あるいは災害を受けない鉄道施設の復旧・整備について、広域的な観点に基づく公共交通システムの構築と併せて検討します。
- 土地利用のあり方を検討のうえ見直します。
ア それぞれの被災地域の特性を考慮した土地利用計画を定めます。
イ 沿岸地域を中心とした住宅の高台移転や宅地のかさ上げなどに伴い、移転先地域なども含めた複数のエリアで土地利用のあり方を検討し、用途を定めます。
ウ 災害危険地域などについては、住民との合意形成のもと、住宅などの建築を制限します。
- 情報通信基盤の整備を進めます。
ア 災害時において、確実に情報収集・発信ができる環境を整備します。
4 防災まちづくり
課題
- 市民生活の安全を守るための基盤である防災機能は、施設整備などによるハード対策と、避難ルートの確立や防災訓練の実施などといったソフト対策が効果的に連携することにより、大きな力を発揮します。
特に大規模な津波に対しては、防波堤や防潮堤を整備しながら、市民自らが防災意識を高め、安全を確保することが重要です。
- 大規模な災害においては、行政機関や公共機関の対応だけでなく、市民による自助(自らのことは自ら行うこと)、共助(互いに助け合うこと)の取り組みが必要となり、その中で大きな力を発揮する地域コミュニティーを強化することが重要です。
- 今回の災害において、多くの市民が、市民生活や産業活動に大きな影響を与えたライフライン(電気、水道、通信など)の寸断や、燃料や生活物資の不足などを経験する一方、このような困難な事態に対し、全国・世界各地から温かい支援をいただいたところです。これら生活に欠かすことのできない機能の強化や代替手段の確保、広域的・多面的な災害サポート体制を整えることにより、大規模な災害に備える必要があります。
目標
被災の教訓を生かし、「自分たちのまちは、自分たちで守る」ための防災の仕組みをつくります。
方針・施策
- 今回の災害による教訓を生かし、新たな防災体制を整えます。
ア 津波に対する防災体制を見直します。
イ 新たな住宅地造成などに関連して、土砂災害などに対する防災体制を見直します。
ウ 防災施設の充実・強化を図りながらも、防災施設に偏らない防災体制を整えます。
エ 高齢者や障がい者など災害弱者に十分配慮した防災体制を整えます。
オ 建築物の構造を災害に強いものにするよう促します。
カ 高層の避難場所を確保するなど、沿岸部などの防災機能を強化します。
- 防災教育や防災訓練を積極的に推進します。
ア 今回の災害の記録を保存するとともに、津波に関する遺構やモニュメントを活用するなどして後世に伝えます。
イ 市民各層に対して防災に関する教育活動を実施します。
ウ 東日本大震災が発生した3月11日に、広く防災意識の高揚を図るための事業を実施します。
エ 市内全域または地域ごとに防災訓練を実施します。
- 地域コミュニティー機能の維持・強化を図ります。
ア 自主防災組織の育成・強化を支援します。
イ ボランティア組織の育成・強化を支援します。
ウ 市民の自主的な地域づくり活動や拠点となる施設の整備などに対して支援します。
- ライフラインや交通・物流などの機能を強化します。
ア 関係機関の協力のもと、重要施設などへの重点・優先投資を行いながら、これら機能の早期復旧体制を整えるとともに、再生可能エネルギーの活用など、非常時の応急的な生活を支える方策について検討します。
イ 災害に備えた物資の備蓄や調達方法を強化します。
- 広域的な観点を重視した災害時の応援・サポート体制を整えます。
ア 医療・福祉をはじめさまざまな分野において、市内外の多くの機関との連携による相互支援体制を確立します。
イ 気仙2市1町の一層の連携推進をはじめ、三陸沿岸地域や岩手県内陸部の市町村など、自治体間の相互支援体制を強化します。 ウ 災害時にすばやく対応できるボランティアネットワークを強化します。
第3章 復興の推進に向けて(復興の推進体制)
- 東日本大震災からの一日も早い復興を目指し、市民や企業、行政などの協働による取り組みを推進し、その進行状況や成果などを確認するための組織を市民参加のもとに設置するとともに、関連情報を市内外に積極的に発信します。
- 市民による復興に向けた自助(自らのことは自ら行うこと)、共助(互いに助け合うこと)の取り組みを推進するため、地区・地域ごとの復興推進組織の設置を促します。
- 早期復興の実現に向け、復興計画により、大船渡市としての復興の方向性や具体的な取り組みを明らかにしながら、気仙2市1町や岩手県沿岸自治体の連携を一層強化するとともに、国や県に対しての要望や提案、財源の確保や特区制度の有効活用など、必要な働きかけを積極的に行います。
- 最優先課題である復興に対応するため、市における復興関連事業の実施体制を整えます。事業推進にあたっては、厳しい財政状況を踏まえつつ、市政が停滞しないよう十分留意しながら、事務事業全般の見直しを行うことなどにより、可能なかぎりの人員と財源を集中します。